王の手記その 1:序文
この施設を見つけたときは、心が昇った。
こんな気分になるのは、楔の一つを手に入れたとき以来か。
ここに眠る知識を紐解けば、私が欲するものが
手に入るのもそう遠くはないだろう。
王の手記その 2:神龍の像
施設の所々に魔法障壁があった。
ドラグーンどもの施した仕掛けが
まだ活きているということか。
これを開放するには、神龍の像から飛んだ先にいる、
それらを守護する魔物どもを倒さねばならぬのだが、
厄介事がある。
決戦場には、決められたアライメントの者しか
入ることが許されぬのだ。
人生の積み重ねによってアライメントが
変化することはあるだろう。
しかし、普通の人間は一つしかアライメントを持ちえない。
つまり、いくつかある魔法障壁のうち一つしか
通行することができないというモノなのだろうか?
試しに、己の持つアライメントのゲートを突破した。
しかし、魔法障壁が解放されたようには見えなかった。
だが、見た目に惑わされてはいけない。
己の持つアライメントに対応する魔法障壁は
素通りすることができるようになっていたのだ。
王の手記その 3:闇の儀式
闇天使を呼び出す儀式を行おう。
やるたの知識は役にたつからな。
こんな辺鄙な地で儀式に必要な
「山羊の頭骨」と「脈打つ心臓」を
手に入れるのは、骨が折れた。
とはいえここで贄となる「脈打つ心臓」の数をケチって
儀式を失敗するのも馬鹿らしい。
10 も用意してやれば十分だろう。
後は、魔力が強い場所で魔方陣をひき、
それらを贄として使えば、
問題なく呼び出すことができるだろう。
闇天使に己がアライメントを偽る方法が
ないかと尋ねてみた。
そうしたら無限の心臓というものをよこしてきた。
これに各アライメントの色を宿すことにより、
己がアライメントを偽ることができるそうだ。
王の手記その 4:偽りの方法
闇天使が言うことを鵜呑みにすれば、
無限の心臓を染めるには、
それなりの手順が必要なようだ。
まず、魔力があふれているパワースポットに
(なんてことはない、闇天使を呼び出したあそこだ)
染めたいアライメントの属性をもつ人間を立たせる。
そして、各アライメントを象徴する天秤に
無限の心臓を乗せるのだ。
それで天秤が吊り合えば、そのアライメントの色に
染まった無限の心臓の写し身が顕現するとのことだ。
ただし、パワースポットに立たせた人間のアライメントが
弱いと天秤は、吊り合わない。
その場合は、贄の泉に捧げ物を投げ込めとのことだった。
人は、近くの集落から適当なのを連れてくればよいが。
この儀式において気(オド)が相当量吸い取られるだけで
死に至ることはないと言っていたが……
私がここにいることを他者に知られるのは面白くない。
事が済んだ後、始末するかあるまい。
しかし面倒な話だ。
「黎明の君主」と称されしこの私が、
冒険者や山賊風情の真似事をせねばならないとは。
王の手記その 5:異なる者
最後は、厄介だった。
どのアライメントにも属さぬ者を示せというのだ。
この手の話は、簡単だ
大抵、今までのものを一つに纏めれば片が付く。
パワースポットに各アライメントの人間 3 人を
立たせればいいだけのことだ。
王の手記その 6:界の贄
問題は、それだけでは心臓の色が染まらないことだった。
やはり贄が必要なのだろう。
たしかこの施設内にどのアライメントにも属さない
贄の泉が存在したな。
だが、保存状態が悪かったのか、
その贄の泉の水は枯れていた。
どうするべきか……
まあ、考えるまでもない。
無いものは外から持ってきて補ってやれば良いのだ。
適当なところで汲ませた水に、例のパワースポットで
魔力を与え、贄の泉に注いでやった。
問題はないようだ。
一時的にだろうか贄の泉は機能を取り戻した。
あとはこいつに界に潜む者の血でも注いでみようか。
王の手記その 7:ドラグーンの知識
神龍の像は、問題なく解放することができた。
守っていた魔物どもは大したことはなかったが。
これで深部へと行くことができる。
しばらくは、ここでドラグーンの知識と
研究成果を堪能しようとするか。
深層部に行くための神龍の像には、
大した仕掛けはなかったが、
ふむ、それではつまらんな。
深部で調べ事をしている間、追っ手に
邪魔されるのも面白くない。
だから私は、神龍の像にちょっとした
細工を施した。
私自身にまつわる事柄を合言葉としようか。
王の手記その 8:愚弟との争い
闇天使の合言葉を考えていたとき、
ふと昔のことを思い出した。
身の程知らずの愚弟アーシュライトが私から王座を
奪おうとしたときのことだ。
忘れもしないアズラス暦 38 年、20 歳を迎えたばかりの
私は、王としては愚かで慢心の極みにあった。
その隙をつかれたのだろう。
愚弟アーシュライトは、この私から
いとも簡単に首都リラローザを奪った。
その点に関しては、やつの方が一枚上手だったことを
素直に認めてやろう。
だが、そのままでは終わらせなかった。
復讐に燃えた私は、各地を巡り、私の剣となる
面子をそろえた。
ドワーフ族の戦士アルトワチス
ヒューマンの戦士にして私の側近ジャック・トリントン
エルフ族の美人僧エマ・リアント
ノーム族の尼僧シャンベラ・クルストス
ポークル族の義賊トムム・トル・トレル
そして、たった6名でリラローザに攻め入ったのだ。
その際、私は、アーシュライトに対抗すべく、
第九の楔「天駆ける外套」を手に入れるが、
戦いの最中、アーシュライトにそれを奪われてしまう。
このローブ自体が空を飛べたり瞬間移動できるので
それを身に纏ったヤツを相手にするのは、
それなりに骨が折れた。
だが、やはりやつは愚弟だった。
楔の力をコントロールしきれず、過去とも未来とも
わからぬ時間の彼方へと放逐されおった。
間抜けな話だ。
やつの自滅という形で、この内乱が決着するとは。
戦いの最中、アルトワチス、シャンベラ・クルストス、
トムム・トル・トレルが死亡したが、
私は、リラローザを奪還することができた。
初めは、復讐のための道具程度にしか思ってなかったが、
死線を共に乗り越えれば、それなりに情というものが
沸くものだ。
彼らのことは、像を建て英雄として奉ることにした。
王の手記その 9:楔の封印
愚弟を始末した後、私は、第九の楔「天駆ける外套」を
魔術師チュ・ル・ガーに封印するように命じた。
やはり神具は、人の手にあってはならないことを
愚弟の様を見て痛感した。
チュ・ル・ガーは、楔をある街ごと封印したとの報を
最後に消息をたった。
チュ・ル・ガーがその後どうなったか知らないし、
別に知ろうとも思わなかった。
ただ楔が人の手に渡らなければそれでいいのだ。
王の手記その 10:飢え
若い日の私は、飢えていた。
人としての限界を感じずにはいられず、
あれほど固執した王座に興味すら失っていた。
その渇きの癒しを愛欲に求め、
そこから生まれてくる我が化身に一筋の希望を
見出そうとしていた。
そして生まれてきた幾人ものわが息子たちに試練を与えた。
多くの者は、その試練に打ち勝つことができなかったが、
シュリタールだけは別だった。
シュリタールは、全ての試練を乗り越え、
悠然と私の前に立っていた。
この息子こそが我が希望となろう。
と、その時はそう信じた……。
王の手記その 11:導き出された答え
たしかにシュリタールは全ての面で非凡な男で、
私より王にふさわしい人物であった。
だが、それでも超人の域を超えることなく、
それを知ると私の希望は、人というものに対しての
絶望へと変わっていった。
私は、王座をシュリタールに預け、もはや王宮にすら
立ち寄らなくなっていた。
そんな折、私は、薄汚い街の片隅で無名の魔術師に出会う。
全てが怪しい男だったが、一言だけ我が心を動かす
一言を放った。
「人に絶望したなら、人であることを捨てなさい。」と
シンプルな答えだった。だが、それが私の飢えを
癒す唯一の答えだった。
答えが出てから私の行動は、早かった。
早速、闇天使を呼び出し、ある契約を行った。
闇天使は、見返りに我が親族の生き血を要求してきたが、
さしたる問題ではなかった。
私は、かつて多くの種を撒いたのだ。
その実は熟しており、刈るにはちょうどいい頃合だった。
リラローザ中の我が果実を刈り鮮血に染めようではないか!
そして闇天使は、こう言った。
お前が与え奪った命は、ソウルの糧となり、
喰らった血肉は、お前に不滅の肉体を与えると。
そうやって私は、人ならざる者の知識と不死の体、
朽ちることのない魂を手に入れた。
だが、まだ足りぬ。
だから私は、ここを訪れたのだ。
さらなる力を手に入れるべく。
満たされることのない飢えを
少しでも癒すために……